出版取次・書店企画を経て、自らの本屋を開業。 人々の心に余白を生み、地域に愛される「持続可能なまちの本屋」へ。

目次

  1. 憧れの出版業界へ。しかし、現実は想像の何倍も厳しかった?!
  2. 書店との関わりの中で大きくなった、“書店開業”への想い
  3. クラファン成功!「TOUTEN BOOKSTORE」、ついにオープン。
  4. 「持続可能なまちの本屋」を目指し、試行錯誤の日々。
  5. 本が好きでも、そうでなくても。地域の人の繋がり、愛され続ける本屋を目指して。

地方×若手×キャリアをテーマに、活躍する方へのインタビュー企画。第一弾は、愛知・金山にて「TOUTEN BOOKSTORE」を営む古賀詩穂子さんにお話を伺いました。これまでの人生を振り返る「モチベーショングラフ」を書いていただき、キャリアの変遷についてグッと迫っていきます。

古賀 詩穂子(こが しほこ)さん
1992年、愛知県生まれ。出版取次・日本出版販売で勤務ののち、本屋をつくるチーム、エディトリアル・ジェットセットに転身し上京。地元・愛知で自ら本屋を経営するため名古屋に戻り、「TOUTEN BOOKSTORE」を開業。開業にあたって実施したクラウドファンディングでは驚異の400万円を達成し、メディアでも話題に。「持続可能なまちの本屋」を目指し、日々奮闘中。

フジコ

古賀さん、本日はよろしくお願いいたします!まずは書いてくださった「モチベーショングラフ」を見ながら、お話をお伺いさせてください。20歳の頃、留学していらっしゃるんですね!高校卒業後の進路は、何を基準に決められましたか?

昔から異文化に興味があったので、国際教養学部のある中京大学に進学しました。そこで比較文化論や選択言語であるスペイン語などを中心に学んでいたんです。

大学の制度を利用して、20歳の頃にセメスター留学(約4ヶ月)でスペインへ行きました。座学だけでは知れない現地を肌で感じることができて楽しかったです!たとえば家族との時間を大事にするシエスタ文化や、21時から始まり深夜でも小さな子供たちが走り回っている街のお祭の風景などに、自分が知っている世界の狭さに気づかされました。それに、留学に来ている学生は人種も年齢もバラバラ。「生き方にはたくさんの選択肢があるんだな」と気づく良いきっかけになりました。

古賀さん

空の高さが印象的なスペインの景色。夜の建物の灯りとのコントラストが好きです。

ホームステイ先の家族といとこと友達と。親切で温かい人たちに囲まれました。

憧れの出版業界へ。しかし、現実は想像の何倍も厳しかった?!

カドヤ

留学後の就活は、急激にグラフが下がってますね…!就活が大変だったんでしょうか?それから、就職先はどんな基準で選ばれましたか?
大変というよりも、東京でも就活をしていたので、出版業界の地方との差に衝撃を受けることが多かったです。“本に携わる仕事が合いそうだな”と思っていたので、就活は出版業界で考えていました。

特に小さい頃から「りぼん」をよく読んでいたので、集英社を希望していましたが落ちまして。そんな中で、たまたま友人から出版取次の話を聞いて。本の卸を担う会社なんですが、「出版社側と書店側の両方に関われる会社なんだ!」と興味をもち試験を受けて、そのまま入社を決めました。

古賀さん

フジコ

憧れの業界へ就職…素敵ですね!実際に入社して感じたギャップなどはありましたか?
ギャップというよりは、出版不況と言われている時代で、自分の不甲斐なさを感じることが多かったです。入社当時、書店店頭売上の前年比マイナスは当たり前。現場の方が疲弊している様子も目の当たりにして、もどかしかったです。ちょうどグラフの中の、「出版業界のジレンマ」というところです。

古賀さん


そんな現状を少しでも変えるために“できることって何だろう?”と考えて、必要なことは「本屋に行く人を増やすこと」だと思いました。当時読んでいて感銘を受けた「これからの本屋(北田博充著)」という本にも後押しをされて、イベントを企画・主催しました。

イベントはありがたいことに大盛況で、ゲストでお呼びした「かもめブックス」の店主である柳下恭平さんとも意気投合し、当時新事業を進めるにあたって人材募集をしているという話を聞いて柳下さんの会社に転職を決めました。その頃ちょうど25歳で、今後のキャリアについても考えていた時期だったんです。名古屋のことしか知らなかったので”出版の中心である東京で働きたい!”という気持ちが強かったんです。

古賀さん

イベント時の写真。取次2年目から本屋開業を目指すようになりました。

カドヤ

地元を離れて上京…勇気のいる決断でしたね!
そうですね!でもその頃はとにかく、わくわくする気持ちが強かったです(笑)

古賀さん

書店との関わりの中で大きくなった、“書店開業”への想い

フジコ

転職後はどのようなお仕事をされていたんですか?
書店の企画と運営を行う仕事をしていました。「本を普段読まない人にどう読んでもらうか」を軸に、手に取りたくなるような本の販売方法を考えたり、本を他業種のものと組み合わせて販売したり……様々なことに挑戦しました。入社した頃はちょうど、大手コーヒーショップと一緒にブックカフェを作る企画が走っていて、やりがいや反響の大きい企画にもたくさん関わらせていただきました。おかげで出版内外両との接点が増えましたし、業務外でも本を売る側・作る側それぞれのお話も聞くことができました。情報・人が多く集まっている東京で、刺激の多い日々でした。

古賀さん

フジコ

聞いているだけで楽しそうな仕事ですね!前職にいた頃とは、書店の見え方も変わりましたか?
そうですね。本の売り方についてや棚の編集について学びが多かったです。元々取次時代に、同じ本の在庫があったとしてもどれ一つとして同じ売場はなく、書店の属人性に魅力を感じるようになりまして。

ちょっと疲れた時に書店に足を運ぶと、本の背表紙を眺めているだけで視野が広がったり癒やされたりして、書店が生活の中の選択肢にあることの重要さを感じるようになりました。東京に行ってからもさまざまな書店に足を運ぶうちに、自分の開業したい書店のイメージが具体的になっていきました。

古賀さん

カドヤ

独立に至るまで、そんな経緯があったんですね。一度は名古屋を離れて東京に行かれた古賀さんが、“名古屋に戻ろう”と決心されたきっかけは何でしたか?
もちろん、東京で開業するという選択肢もあったかもしれませんが、東京にはすでに多くの独立系書店があり、就活の時に感じた東京との格差に抵抗したいという気持ちと、地元の名古屋に自分の学んできたことを還元したいという気持ちがあったので、いずれ名古屋で開業しようと思っていました。個人的な事情もあり想定より早く名古屋に戻ることになりましたが、当時名古屋はまだ独立系書店の新規開業がほとんどなく、話題になると思いましたし、また書店員さんが元気な地域なので、安心して帰れました。

古賀さん

ソエジマ

独立ってとても勇気のいる決断だと思うのですが、会社員とは違う“求められる能力”みたいなものってあると感じますか?
私の場合は、自分が会社員に向いていないと思っていて。会社のなかで自分の役割を考えて動くよりも、自分で全ての決定権を持って決めていくことが性に合っていました。「どうしてこの会議が必要なのか?」とか、「この企画はどんな意図なんだろう?」とか、会社の姿勢とすり合わせることがストレスになってしまう。なので、特別な能力というよりは、“何が自分に合っているか”ということな気がしています。

古賀さん

クラファン成功!「TOUTEN BOOKSTORE」、ついにオープン。

カドヤ

オープンに向けて、クラファンを実施された理由はありますか?
当時クラファンは今ほど身近ではありませんでしたが、たまたまクラファンに詳しい友達が近くにいました。クラファンは広報に活きると思っていたので、初めからやると決めていました。支援してくれたのは、書店が好きな方や、地元の取組に応援したいという方が多かったです。実際にやってみて、資金調達としてはもちろんですが、広報ツールとしてやはり効果的でした。募集ページに自分のやりたいことや想いもまとめたので、自己紹介代わりに使うこともできました。

他にもPRに繋がることには積極的に取り組みました。特に新聞社の方に取材いただき掲載した後は、支援数も伸びました。記事を読んで、実際にお店に足を運んでくださった方も多くいらっしゃいます。

古賀さん

ソエジマ

メディアでよく取り上げられている印象でしたが、しっかりした戦略のもとでやっていらっしゃったんですね!より多くの方に支援いただくために、他に工夫されたことはありますか?
Webでの発信だけではなく紙のチラシによる広報活動も行いました。QRコードを印刷したチラシを名刺のようにお会いした方に渡したり、イベントやお店先などに置いてもらったり。地道な作業ですが、チラシを見ることで思い出せるので、効果があったように感じました。

古賀さん

「持続可能なまちの本屋」を目指し、試行錯誤の日々。

カドヤ

「持続可能なまちの本屋」というビジョンを掲げてお店を運営されていらっしゃいますが、経営的視点で意識していらっしゃることについて教えていただけますか。
“毎日でも気軽に足を運んでほしい”という思いがあるので、カフェも併設しています。ほとんどの人が本を買うよりもドリンクを飲む頻度の方が多いですし、地域の方にフラッとお越しいただくきっかけを作りたかったんです。それと、書店でのイベントやギャラリーなども行っています。コロナの状況次第ですが、本の出版に合わせたトークイベントや様々な読書会のようなイベントも行いたいですね。

古賀さん

店内ではドリンクのほか、3種類から選べるヴィーガンクッキーも購入することができる。

フジコ

都会の大手書店はそのような取り組みもされていますが、街の書店では珍しいですよね。街の書店だからこそできることは何でしょうか?
今ではそんなに多くはないですが、大手書店では扱いづらい少部数のZINEなども仕入れるようにしています。それから、置く場所にも小回りが利かせやすいです。例えば、フェミニズム関連の本が近年多く出版されていますが、売場のジャンルとして作られていないことで「実用書」や「エッセイ」、「専門書(女性学)」などバラバラになってしまうことがあります。売場を新たに作り編集することで提案をしたり、細かな文脈を作ったりすることができます。

古賀さん

工夫が凝らされた店内の配置に、古賀さんのこだわりが詰まっている。

 

本が好きでも、そうでなくても。地域の人の繋がり、愛され続ける本屋を目指して。

ソエジマ

「TOUTEN BOOKSTORE」を運営するにあたって大切にしていることやポリシーを教えてもらえますか?
どんなお客様にも誠意を持って関わっていくことを大切にしています。前職の先輩は、常に実際に目に見えるお客さまやさまざまな立場、状況のお客さまのことを考えて売場づくりや棚づくりをしていて、自分自身もそんな書店員になりたいと強く思っていました。「本が好きな人にも、本を普段読まない人にも来てもらえる書店」を目指していきたいですね。

古賀さん

カドヤ

本を読まない人も利用できる書店って、すごく素敵ですね。私があまり本を読まないタイプで…。そんな方にもおすすめの読書法があれば、ぜひ教えてください!
いきなり一人で読書を始めるのはハードルが高いと思う場合は、読書会を活用していただくといいかもしれません。以前、その場で本を読むタイプの読書会を開催したことがあって。15分くらいで読める文量をその場で読み、感想をシェアするんです。ルールは「どんな感想も、決して否定しないこと」。こうやって互いを尊重し合うことで、感じ方の違いの面白さに気づけたり、一人では得られない面白さがありますよ。

古賀さん

フジコ

東京から戻ってこられた古賀さん。これから名古屋や東海地方を面白いまちにしていくために必要なことは何だと思われますか?
横の繋がりが大切だと思います。私自身、イベントやマルシェを通してどんどん周りの方と繋がっていきたいと思っています。他の地方では分かりませんが、名古屋では、市が主催しているイベントやスポーツクラブで、年配の方同士のコミュニティの場が多くあるとお客さまから聞きました。だからこそ、若い人も年配の人も交差しながらたのしめる企画をして盛り上げていけたらな、と思います。

古賀さん

ソエジマ

最後に、今後の展望や意気込みを教えてください!
本が好きな人にも、普段は本を読まない人にも来てもらえる本屋であり続けたいです。お客様に足を運んでいただけること、お店でたのしんでもらえること、本を購入していただけることが日々のモチベーションになります。先日も小学生一人で来て、お小遣いで買える本を一生懸命選んでレジで嬉しそうに受け取ってくれて。そんな時心からの喜びを感じますし、“書店をやっていて良かった”って、思います。

そして、「TOUTEN BOOKSTORE」は本を売る場所だけでなく、年齢問わず、地域のあらゆる方々が交われるきっかけの場となれるようなことに取り組んでいきたいですね。

古賀さん

カドヤ

古賀さん、貴重なお話ありがとうございました!!

【「TOUTEN BOOKSTORE」】
<アクセス>
〒456-0012 愛知県名古屋市熱田区沢上1-6-9 金山駅より徒歩7分
<営業日時>
月曜日~木曜日  8:30〜18:00
金曜日      8:30〜21:00
土曜日、祝日  10:00〜18:00
日曜日     お休み

Instagram: https://www.instagram.com/touten_bookstore/?hl=ja
HP: https://touten-bookstore.net/